以前から零戦にまつわるミステリーのひとつに12空の零戦11型および21型に見られる胴体前後の色の差があります。12空は正式採用になる前の零戦、すなわち12試艦上戦闘機で実用試験を兼ね中国大陸へ進出、華々しいデビューを飾った部隊です。これらの零戦を写した写真に胴体の日の丸の中央を境として前半が暗く後半が明るく写っているものがあり、これについていろいろな憶測や意見が多くの研究家から出されました。しかしいまだにその真相は謎のままです。今回、他の研究家の方々の意見など聞きながら、現時点で私の見解をまとめることが出来たのでここに発表したいと思います。
零戦はすべて胴体第7隔壁(風防末端、主翼付け根直後)より後半部を分割出来るよう設計されていますが、もしここを境にこの色の差があれば製造工程で生じたこととなりさして問題にはならなかった筈です。しかし色の境はやや後方の胴体日の丸の中心に位置しています。このことから〜進出を急ぐため間に合わせ塗料を塗った(?)〜、塩害防止の為ワニスを前半部に塗った〜等、曖昧なものが多く疑問視せざるを得ませんでした。その中で一番説得力のあったのが〜防諜上の理由からテイルナンバーを書き替えた際に生じた〜という説明でした。これは前半部の暗い方がオリジナルの色で後半部が塗り変えた為に生じた明るい色とする説です。すなわち〜新鋭機零戦の正確な数を敵に悟られないよう垂直尾翼のナンバーを書き変えた際その周辺に色の差が生じてしまった。あからさまにテイルナンバーの書き変えが分かってしまうので目立たなくするため胴体日の丸の直径を利用し尾部全体を塗り変えた〜とする説です。12空の零戦の写真には全体が一色に見える機体もあり、そのつもりでこれらのテールナンバーと前後二色の機体のテールナンバーを比較すると一定の法則があるように思われ、私も長いあいだこれを有力説と考えていました。
最近、より鮮明な写真数枚を見てこの説との矛盾点に気付きました。1. 主翼、外翼部が胴体後部と同じ明るい色に写っている。2. 左側胴体後部にあるデータ・ステンシル部に塗り変えた色の差がない。3. 境は正確には日の丸の中心ではなく若干後方に寄っており、よく見ると日の丸の前後も若干色が違う。以上から後半部の明るい色がオリジナル色で前半部の色が透明塗料、ワニスのようなものを上塗りしたために生じた暗い色調だと想像出来ます。当初、主翼燃料タンク注入口付近まで暗い色に見えることから燃料および滑油に対する保護塗料を塗ったのでは?と考えたのですが、零戦に使われた軽金属用塗料は耐燃料性・耐滑油性ともに十分ということでした。
日の丸の中心より若干後方にある色の境はちょうど第8隔壁にあたります。ここは隔壁(フレーム)に沿った外版の継ぎ目はなく第7隔壁より機体後向に向け渡された細長い外版をリベットで留めてあるだけです。つまり機体分割部でないばかりか外版の継ぎ目すらないのです。〜ここまで〜と意図的に塗られた結果ですが、分割部である第7隔壁を超えて塗らなければならない第8隔壁に何かあるのでしょうか....?そして私は胴体第7隔壁と第8隔壁の間に乗降用の足掛けと手掛けがあるのに思い当たりました。これらは共に外部にあるボタンを押すとバネ仕掛けで飛び出るようになっています。この上塗りが風防枠を含む胴体前半部と主翼上面機体寄りの部分に施してあり第8隔壁で止まっているのは、搭乗員や整備員が立ったり手を触れたりする部分の保護が目的ではないでしょうか。
12空以外の零戦でも前半部が暗い色に写っている写真はいくつかあります。たとえば文林堂世界の傑作機, No55「零式艦上戦闘機11-21型」のP.48にある報国535号の写真は12空程の色の差でないにしろ分割出来る第7隔壁より前と主翼付け根補助翼内側が一段暗い色に写っており、さらには艶も一段高く同じ目的と思われるのですが皆さんはいかが思われるでしょうか。
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