7月の24日に封切となったスピルバーグの新作、映画"Saving private Ryan"を見てきました。トムハンクス主演の映画で久々の第二次世界大戦ものです。既に話題になっているように戦闘シーンのリアリティがものスゴク、今までの映画では表現し切れなかった戦争が描かれていました。冒頭のノルマンデイー上陸作戦のシーンからいきなり壮絶ですが、数ある連合軍上陸部隊のうち、もっとも犠牲者の多かったアメリカ軍の上陸地点オマハ・ビーチを再現しています。後半に市街戦がありここでは"Kelly's Hero"や"Night of Generals"にも登場したハリウッド製タイガー沍^戦車が2台登場します。戦闘シーンのパワー・アップ以外ここの部分のプロットなど、昔のハリウッド映画そのもので懐かしいぐらいです。他のプロップでは本物のケッテンクラートやドイツ軍20mm対空機銃(スイス製?)、マーダー自走砲(チェコ製?)やM4シャーマンなどが登場し、AFVファンなら結構楽しめると思います。私の場合ちょっとキナ臭すぎて模型へのインスパイアはありませんでした。あとP-51Dマスタングが戦闘爆撃機(?)としてチラっと登場しますが...。
この映画にも目立たないところでデジタル技術が多く使われているのは間違いありません。いままでの映画では銃の発砲シーンは空砲を使い音と煙で表現するしかありませんでした。これは基本的にサイレント映画の頃と変っていません。最近のスペシャル・エフェクトで着弾のエフェクトがよりリアルに進化したぐらいでしょうか。発砲と着弾のその間に弾がなかったのです。実際の銃撃戦では曳光弾の軌跡が見え、これが装甲板等に当たって跳ねるのも見えます。口径の大きい銃器では弾が放物線を描くのも見えるのです。この映画ではトレーサー(曳光弾の軌跡)をポスト・プロダクションで入れているのでしょう。灼熱の弾丸が赤い尾を引いて空中を飛び交い装甲板に当たり跳ね返る様が見えます。これは映画では初めてではないでしょうか。マルチ・チャンネルの音響効果と相まって私は弾丸が空間を飛び交う恐怖を始めて映画で感じました。
この映画、具体的にはあえて言いませんがストーリー面で魅力は感じませんでした。個人的にスピルバーグの映画はどれも鼻につく部分があり(ETや「未知との遭遇」みたいな演出)あまり好きではないのですが、この映画もやはりスピルバーグ節のチラチラする映画でした。ではSFXを使ってここまで戦闘をリアルに表現する意義はあるか?私はそれなりにあると思いました。もともとすべての映画にある機能のひとつ、疑似体験の部分だけを取り出して尖鋭化して行けばシュミレーターになると思いました。忠実な再現力はフォト・ジャーナリズムのように問題提起も出来るでしょう。
その昔サム・ペキンパー監督が執拗に繰り返し使った血飛沫のスローモーションが残酷だといわれましたが、私の目には美しい映像の演出として写り、実に映画を見ている気がしましたしオリバー・ストーンの悲壮感一杯のベトナム反戦映画でもメッセージが明白なだけ芝居を(いい意味で)感じました。私は日本の幽霊映画の精神的恐怖を欧米モンスター映画の肉体的恐怖より高く評価する(怖いと感じる)のですが、これらはすべて小説や芸術で言うところの表現の部分です。一方感情の入る隙間のないローラーコースターのような肉体的危機感は文章や絵には出来ません。この映画の戦闘シーンの首をすくめたくなる危機感は死に対する恐怖といったメンタルなものではなく、コンスタントに反射神経を擦りへらされるストレスそのもので、人間が死そのものより肉体的苦痛を恐れるのを感じました。もしTVの「コンバット」がこの映画"Saving private Ryan"のようなリアリティーを持っていたとしたら、果たしてタミヤのMMシリーズはヒットしたでしょうか?
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