映画 "THIRTEEN DAYS"

先週公開なったばかりの映画「Thirteen Days」を見てきました。1962年に起きた「キューバ危機」、ソ連のキューバ核ミサイル配備による核全面戦争の危機に直面した、アメリカ建国以来最も若い閣僚の苦悩が描かれています。

宣伝されているほどお金の掛かった映画の様には見えませんでしたが、ホワイトハウスの内幕を再現しており、なかなか面白かったです。ストーリーの中心はもちろんジョン・F・ケネディ大統領ですが、映画では陰の人物といってもよい大統領特別補佐官ケネス・オダーネル(ケビン・コスナー)を中心にケネディ大統領とその弟、司法長官ロバート・ケネディの3人が、先制攻撃を主張する軍部のタカ派と対立する様が描かれています。

中心となった3人の男たちですが、全面核戦争という人類未曾有の危機に直面したのが、ジョン・F・ケネディ大統領45歳、弟ロバ−ト・F・ケネディ司法長官36歳、そして大統領特別補佐官ケネス・オドネル38歳だったのですから今さらながら驚きです。強硬派、軍部の長老には二次大戦中戦略爆撃の思想で名を馳せ、戦後在日したこともあるカーチス・ルメイ将軍も登場します。また映画では1990年代になって初めて公開された陰の取り引き〜アメリカがトルコに配備してあったジュピターミサイルの撤去を引き替えに、ソ連に対しキューバからのミサイル撤退を要求した。〜事実も描かれています。

私はこの映画を見ながらキューバ危機の20年前に起きた真珠湾攻撃、日米開戦前夜の内幕を重ね合せて見てしまいました。

私は太平洋戦争開戦時、〜ルーズベルト大統領は真珠湾攻撃を事前に知っていた〜という説を支持しているので、この映画を見ながら1941年に起こったであろうホワイトハウス内での同じ議論を想像してしまいました。真珠湾攻撃をルーズベルト大統領が知っていたという説は少数派ながら、歴史に関心のあるアメリカ人の間では意外に広まっています。「バルジ大作戦」"Last 100 Days" "The Rising Sun"などの著者として有名な歴史家のジョン・トーランドが詳しい調査を元にこの説を長年主張してます。奥さんが日本人なので、ただのシンパだと思うアメリカ人もいるようですが。

日米開戦前にアメリカは日本の暗号解読に成功し、大使館宛の通信は全て傍受していた事は事実です。これは米政府も情報を公開し公式に認めています。私の住んでいるサンフランシスコにも当時、日本領事館の通信を盗聴するため常時諜報部員2人が詰めていたビルが今も雑居ビルとして健在で、私はその一室を見に行ったことがあります。

公式には〜攻撃は知っていたけど、真珠湾とホワイトハウスだけには報告が間に合わなかった〜となっています。しかし情報戦の重要性を早くから認識し1920年代より日本の外交暗号。オレンジおよびレッド・コードをそれぞれ解読し、1940年にはドイツのエニグマより難しいとされていたパープル・コードを暗号解読の天才フリードマン率いる暗号解読スタッフにより密かに破っていたアメリカが、ハワイへの連絡に失敗したとはとても思えません。また当時航空戦力を重視し機動部隊の思想を実践したのは日本とアメリカだけですが、攻撃時、米空母はたまたま?出航し、真珠湾には旧式の戦艦しか残っていませんでした。悔しいながら一枚上手だったと言わざるを得ないでしょう。この点については1967年の映画「トラ・トラ・トラ」でも大統領に知らせるべきかどうか躊躇するシーンがあり、暗示的ながら公平な表現だと言えるでしょう。この辺りの記録は米政府もまだ国家機密にしていますが40年後にさらに詳しい情報が公開される予定です。

この"Thirteen Days"映画冒頭にも「これじゃまるで日本の空母が真珠湾に向かって来るようじゃないか。」という補佐官オダーネルのセリフがありますが、もし、オダーネル本人が1962年当時にこう発言したのなら非常に興味深いです。映画中、開戦近しと見たソ連大使館の煙突から書類を焼く煙が立ち上るシーンがありますが、日米開戦時も1962年も、国際間の危機が迫る度に繰り返された同じシーンです。映画には描かれていませんが、本によると60年代当時もソ連とホワイトハウスの公式文書のやり取りは日米開戦時とほとんど変っていません。暗号解読〜翻訳というプロセスがあるためテレックスを主に使用し、文書はなんと自転車で運ばれたそうです。核戦争〜人類滅亡の危機に際しても自転車に頼らなければならないというのは可笑しいですね。

この映画、はっきり言って飛行機に期待したらガッカリするでしょう。実機では唯一Fー8クルセーダーが登場しますが飛行不能なため飛行シーンはCG処理です。U2スパイプレーンに至っては完全にCG再現で、他の飛行機は全て当時の記録フィルムからです。ただし映画館で見るなら本物のA-4, Fー100, Bー36, B-52等が大スクリーンで見れるので悪くないですね。

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