スケールアヴィエーション第14号
 

「アメリカの展示会事情」

アメリカでは、プラモデルの展示会は必ずコンテスト形式で開かれるのが常で、日本で行われるような純粋な展示会はほとんどないと言って良いでしょう。これは競技の好きなアメリカの国民性も関係していますが、日本に比べると人口が過疎なのでテンションを高くしてイベント性を持たせないと人が集まらないという現状があるからです。これもパーティー好き、ゲーム好きなアメリカ人の国民性を生んだ歴史的背景とも言えますが、日本のように交通の便の良い市街地が少ないアメリカでは(市街地は場所を借りるだけでも高くなってしまうので)プラモデル・コンテストは家族連れで車で出かける週末の一日イベントとして郊外で開かれる事が多いのです。したがって日本の展示会のように一般の人が足を運ぶという可能性はなく、また数日に渡って行われるイベントでもありません。郊外なので会場となる施設、郊外のホテルや公民館等の周りには何も無いので昼には一番近くのマクドナルド等へ車で行かなければなりません。他に時間をつぶす場所もないので、もしプラモ嫌いが付き合いで行ったらほんとうに退屈でしょう。日本の展示会に比べると閉鎖的なイベントと言えるかもしれませんが、その分コンテスト会場に集まった人達のイベントを楽しむ態度は実に積極的です。

アメリカでは、コンテストという競技形式に対して反対意見を述べる声が無いか?と言えばそうではなく「年少のモデラー育成の為にコンテストの勝ち負けは厳し過ぎないか?」「不満の付きまとう審査結果にコンテスト自体の意味が果たしてあるのか?」等の質疑は定期的にクラブ内でも浮上し「次回のクラブのコンテストは展示のみにしよう。」と言う具体案も出ます。しかし決を採るとやはり多数が「コンテスト形式のほうが励みになるし、面白い。」と答えて今だに純然たる展示会は実現していません。私個人も審査結果が究極のものでないと踏まえた上で、やはりコンテストは面白いと思います。冒頭に書いたように、アメリカで純然たる展示会を開いた場合に果たして人が集まるかどうか、非常に疑問に思います。

 

「アメリカのプラモデル・コンテスト」

ごく一般的なこちらのクラブの主催するプラモデル・コンテストの模様を順を追って説明します。まず、開会が朝九時頃にモデラー達が、自慢の力作を携えて集まり始めます。必ず週末ですので子供を連れた家族連れも結構見られます。コンテスト参加者以外は無料ですが、参加者はまず入り口で作品一点に付き2〜3ドルのエントリー・フィーを払い登録を済ませます。参加者は渡された用紙に作品のカテゴリーや使用キット等、簡単な情報を記入し、用紙を添えてカテゴリー別所定の展示テーブルに作品を並べます。昼頃にはコンテスト参加者の登録が締め切られますが、それまで会場の展示テーブル上で、運ぶ途中で折れたアンテナの修理をしたり最後の仕上げに余念のない参加者も多くいます。

モデラーにとってコンテストそのものも勿論楽しみですが、もう一つのお目当てがベンダーです。会場には中古キットや関連書籍を売る個人から新キットをディスカウントで売る業者、自家製ガレージキットを売る店、アヴィエーション・アートを売る画家など、様々なベンダーのテーブルが並べられていて、会場はカントリーフェアさながらの様相です。小さな子供達も親にキットを買ってもらって大喜びです。自分で開発した製品を実演販売するモデラーや、中には自分のコレクション、本物の戦車や軍用車両などの走る様子をビデオに編集して売っている人なども居て、モデラーなら見て回るだけで1〜2時間は絶対に飽きないでしょう。特にオールドキットの掘り出しものは、昼頃までには大方買われてしまうため朝早くから大変賑わいます。朝コンテスト会場を捜す際、プラモの箱を山のように抱えて車まで運んでいる人を駐車場に見つければ、そこがコンテストの会場です。ここでも「早起きは三文の得」で寝坊して行くとお宝キットをゲットした友人の自慢話しを聞かされるハメになるのです。「会場に着いたらまずベンダーをチェックしてエントリーの手続きは後でゆっくりする。」というモデラーも少なくありません。

会場内の目立つ場所にはコンテストの賞品となるトロフィーや楯が並べられています。通常カテゴリー事に1〜3位まで賞を出すので、これらはかなりの数になります。また離れた所には最新キットや道具が山のように展示されているのですがこれは入賞者に与えられる賞品ではなく、こちらのコンテストには必ず付き物のロッタリー(くじ)の景品です。景品はクラブメンバーに依って寄付された新品キットや地元模型店協賛の商品で、主催者のクラブはこのロッタリーの収益で少しでもコンテストのための出費を補うのです。参加者は一枚50セントのチケットを何枚でも買う事ができ、抽選発表時には皆この景品の山の前に集まり必死に手持ちのチケットから当選番号を捜すのです。当選者は前に出て当選番号と引き替えに好きな景品を選ぶのですが、観客のヤンヤの野次の中、当選者もわざと気を持たせて勿体ぶる〜など積極的に楽しんでいるようです。これは小さな子供のいる家族連れも参加して楽しめるので、主催者側は一時間おきに抽選発表をするなど会場の雰囲気がダレないよう工夫しています。

コンテストの結果は普通午後4時頃に発表され、トロフィーの受賞式の後、程なく各人作品を梱包し自由解散式に閉会となります。入賞者発表の一時間ほど前から審査員が集中審査をするため、関係者以外は作品展示テーブル前に立ち入り禁止となります。審査員とは主催クラブのベテランIPMS全国大会受賞者などが行うのですが、エントリーの数が多い場合、短時間の内に行わなければならない審査は、大変神経を使う、また責任の重い仕事なので自分からやりたがる人は少なく、急遽審査員増員を募っている光景が良く見られます。

 

「IPMSとローカル・クラブの関係」

以上が一般的なアメリカのクラブ主催のプラモデル・コンテストの様子ですが特定のメーカーや企業の後押しがないので、必ずクラブの会計に負担にならない様工夫がなされています。こちらではどこのクラブも年会費が一人25ドル程度なので、コンテスト時に限らず、一年を通し財源の確保に工夫がなされています。月例会でもクラブメンバー内でドア・プライズと称し持ちよった不要キットでロッタリーをやったり、ホリデーシーズンには不要のキットを持ちより、一般の人を招待してオークションを開くなど、メンバーに負担のかからない方法でクラブ財政のやり繰りをしています。

この独立採算はクラブの独立を尊重するという精神にも現われています。1960年代にイギリスで発足されたIPMS (International Plastic Modelers Society)ですが、現在IPMSアメリカ支部は世界最大の規模とメンバーを持つ優れた全国連絡機構としてアメリカのプラモデルシーンを語る際にその影響を抜きに語ることは出来ません。しかしIPMSには個々のクラブの運営に関し、政治的な権限は全くないのです。アメリカのほとんどのクラブがIPMSに所属しているのを知った時、私は「中央集権的でアメリカらしくない」と感じたのですが、実はIPMS支部の行うコンテストはトーナメント地区予選ではなく、あの有名なIPMS全国大会も全く独立した一回きりのコンテストなのです。

 

「ユニバーサルなコンテスト・ルール」

IPMSがもたらした数ある貢献の中で最大のものはユニバーサルなコンテスト・ルールの模範を築いたと言う事でしょう。思い思いの作り方があっても良い。クラブの個性、カラーは勿論あってよい訳ですが、横のつながりとしてコミュニケートするためにやはり共通の規範が欲しいと言うのもモデラーの正直な気持ちでしょう。現在どこのローカルのコンテストもこのIPMSのルールに準じた審査をしています。これによって現在アメリカでは違う土地のコンテストに参加してもさほどの意識のギャップを感じる事なく交流出来るのです。勿論このIPMSコンテスト・ルールも過去に修正が行われていますし、このルールもいずれ変わっていくでしょう。ルールは一つの道具であり共通言語なのです。審査決定は勿論、審査員によって人為的に行われるものであり、審査のガイドラインとなるルールは審査そのものを独裁することは無いのです。

このルールも「良いモデルとは何か?」という非常に難しい問題に一つのアプローチに過ぎません。何を持ってして「良いモデル」と定義するか? 勿論これは非常に難しい質問で、むしろ「人の作品を判定する事自体が無理。不遜な行為だ。」と言ってしまったほうが楽です。しかし「それでもコンテストは面白い。」と思う人達が居る以上、楽しむ方法論としてルールの存在意義はあると思います。

 

「スケールアヴィエーション」(7月号/ 2000年)掲載

 


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