光文社『国際おたく大学』
 

図面解説的スタイルと絵画的スタイル

 飛行機モデルを例に話しをするが、一般的に飛行機モデルのスタイルは大きく2つに分けることが出来ると思う。まずそのひとつは実機の色とカタチを正確に縮尺で伝えるクリーンなミュージアム・モデル風アプローチだ。世界的にみてもこれが依然、飛行機模型の場合、主流であると思う。実機の色や形、質感を直にそのまま情報として縮小された模型上に再現する。実機の大きさは縮尺率の表示またはフィギユアなどを組み合わせ相対的に説明するのみで「スケール・エフェクト」は概念としてない。特に大きく見せようという努力はなされていない訳だ。実物の構造を示す大型ミュージアムモデルなどがその典型で、理想としては同じ材料を使い正確に縮小された部品を個々に組み立て同じように機能することが出来ればベストだろう。発想としては縮小された実物な訳でこのスタイルに於ける究極の模型だ。これらの模型は表現という要素は希薄で精緻な作りや工芸的な完成度を身上とし、その点に於いては模型として独自の存在を主張しているとも言える。もう一つのスタイルは立体ながら塗装に絵画的イリュージョンを取り入れたスタイルだ。前者をあえて図面解説的、後者を絵画的と呼んでいいと思う。ジオラマはあきらかに後者だ。ジオラマとはご存じのように、ベースの上に複数の模型を配置して情景を作り出すジャンルだが、前記の本"How to build Dioarama"はジオラマの発想〜すなわち作品とそのまわりの空間を、切り取られた異次元として捉えること〜に於いて一般モデラーに影響を与えた。具体的な方法論としては「スケール・エフェクト」の導入であるし、技術的には以下に述べるテクニックがある。

 

ジオラマからの発想

ジオラマのルーツは額に入れた壁の絵画であり、ヨーロッパで古い歴史を持つシャドウー・ボックスがその直系の先祖である。このシャドウ・ボックスとは奥行きのある、まさに立体絵画とでも呼べるもので、絵画と同じく壁に埋め込まれ額縁をつけたりもする。ジオラマとの大きな違いは絵画のように鑑賞者の視点を固定してあるのでパースペクティブを利用出来ることだ。遠景にあるものは小さく作ればいいわけで、これは撮影用のミニュチュア・セットと全く同じだ。ジオラマの絵画的アプローチを技術面から言えば、ちょうど油絵に描かれた建物や人物に陰やハイライトを描き入れるように陰と光を模型に塗装で表現するという方法である。ジオラマではミニュチュア模型上に偽の陰とハイライトを与えあたかも実物大のようなイリュージョンを作り出すのである。効果は違うがここで使われている原理は舞台化粧や女性のメーキャップとも同じ。具体的なテクニックとして陰の表現にウォッシュをつかう。これは薄く溶剤に溶いた陰の色を表面張力を利用して模型の細かい彫刻の溝の部分に陰を施す。ミニチュアとなった模型上に実物のような深い陰を塗ってしまう訳だ。ここですでに表現という領域に踏み込まざるを得ない。陰に黒を使うか、または印象派の画家達のように黒をパレットから駆逐するかは作者の感性に委ねられているからだ。どう見せるかという作者の目的意識がここでも問われ作品に大きく反映することになる。ドライブラシテクニックは白を混ぜた明るい色をディテールの頂点突起下部分に擦り付けるように塗り、ハイライト部を強調し実物の大きさを再現するのに使われる。絵画テクニックとしては古くから知られているがこれらを応用した訳だ。目立った汚しをするしないにかかわらず、これらテクニックはクリーンな図面解説的模型にも受け入れられ、現在アメリカのコンテストに出品される模型でこのテクニックを全く使っていないものはないと言ってよいだろう。

ちなみにIPMS(International Plastic Modeler's Society)のコンテストではジオラマをどう定義しているかというと、〜ベースの上に複数の模型を配置して情景を作り出す〜という原則の上に、更にストーリー・テラーであることを要求している。この物語性が明確に作品に出ていない場合は〜ただのベース付き作品〜として一般カテゴリーで審査されることになっている。これが一応ジオラマと一般カテゴリーを分けるIPMSの定義だ。

 

「海外スケールモデラー事情」より抜粋


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